学生同士が自然に学び合える環境と、それを支える経験豊かな指導陣から導き出される高い現役合格率/教職課程

インタビュー 2022.02.15|

近年、教員採用試験において約80%という高い現役合格率を誇っている芸工大の教職課程。平均すると3倍を超える競争倍率の中、本学はなぜそのような高水準を維持できているのでしょう。日々指導を行う吉田卓哉(よしだ?たくや)教授に、教職課程での学びの内容と芸工大だからこその強みについてお聞きしました。

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教育現場に欠かせない、学び合い高め合う力

――はじめに2022年度教員採用試験の状況について教えてください

吉田:まず、本学の学生が受験した自治体の倍率を見てみると、高いところで6倍以上、低いところで1倍台、平均して3倍超えという状況でした。

そして美術教員に限って言うと、東北地区は中学や高校の数自体そんなに多くないので、採用人数も少ない傾向が続いています。山形県では2022年度も2021年度も高校の採用枠はありませんでした。また中学については多くても3名という状況が何年か続いていたのですが、2022年度は採用人数が8名と特殊な年になり、その結果4名の合格者を本学から出すことができました。背景にあるのは退職者の増加ですね。東北地区については今後も増えていくことが予想されます。

ちなみに、2021年時点で教職課程を履修している4年生は38名。このまま何事もなければ全員単位を取得して、卒業時に教員免許を取得できる予定です。2022年度の教員採用試験を受けた4年生は18名で、大学院生も含めると22名と過去最高の受験者数になりました。そこから現役合格したのは17名で、約8割の合格率となっています。

――そのように結果が出ていると、教職課程を履修する学生も年々増えているのでは?

吉田:確実に増えていますね。本学には「芸術で食べていきたい」という学生がたくさんいるのですが、同時に「教職を取れば安定した仕事に就きながら制作を続けられる」と考えている人も多いようです。

教職課程 吉田卓哉教授
お話を伺った吉田卓哉教授

――この高い合格率を可能にしている、芸工大ならではの学びの特長を教えてください

吉田:まず、私たちが一番大事にしているのが授業です。いずれ学生たちが教員となって教育現場に出た時にしっかり通用するような、実践的な力をつけられる授業を構成することを常に意識しています。

例えば、学生自ら作成したプランを基に授業を行う「模擬授業」は、教師役はもちろん、生徒役や参観役も学生たちが務めながら、2年次から卒業間際まで繰り返し実施していきます。その際、所属する学科やコースが交ざり合ったチーム編成で授業作りに挑んでいくことで、お互い新しい気付きに出会ったり、学び合い教え合える関係が自然と育まれ、それが学生にとって大きな強みとなっています。そして、授業を離れたところでも交流する機会は継続しているようです。先生というのはすごく責任を負う仕事だからこそ、一人で抱え込んでしまうと本当に大変なんですよね。社会状況や生徒と家庭との関係など、教員一人ではどうしようもできない教育課題というのが非常に大きくなっていますから。でも、この「模擬授業」のようにチームで取り組むと、人を頼れるようになるんです。そうやってチームの人と一緒になっていろんな物事にあたっていくためのトレーニングを積むことが、教育現場に出た時に生きる一番のポイントになると思っています。教職の世界では、よく“同僚性”という言葉で表現するんですけど、ここではそれを合言葉にしながらみんなで力を養っています。

それから、3年生になりいよいよ教員採用試験を本格的に目指していくという学生については、授業とは別プログラムで教員採用試験対策のためのさまざまな講座や面接練習、また私の場合は実技や専門教養の指導なども行っています。4名の教員それぞれに学生を5名くらいずつ振り分け、ゼミのような形で毎週指導している状況ですね。おそらくその手厚さは他大学にはない、芸工大ならではのものだと思います。ここで指導している多くの先生が経験豊富な方々で、校長先生まで務められた方も多くいらっしゃいます。私自身もかつては高校で教員をしていました。

みんなが前に進んでいける関係作り

――これまで取材してきた芸工大出身の現役の先生方は、皆さん共通して「生徒に対して否定はせず、しっかり話を聞いた上でアドバイスすることを大切にしている」とおっしゃっていて、それがすごく印象的でした。

吉田:本学ですすめている「デザイン思考」の中にもある、否定をせずに他者を受け入れ、肯定した上で自分の考えを加えていく「Yes,and」という考え方ですね。教職課程では最初にその大切さを学生に話すようにしているので、それが浸透した結果かなと思います。否定からではなく肯定から始まるコミュニケーションを通して、安心して授業が受けられることをここで実体験できたからこそ、卒業生たちは今それを生徒たちに向けてやれているのではないでしょうか。そうやって生徒との関係作りがしっかりできてくると、今度はお互い言いたいことを言い合えるようになります。そこで多少否定するようなやりとりがあったとしても、生徒は「自分のことを考えて言ってくれているんだな」とその背景まで理解できるようになるので、まずはやっぱりベースを築いていくことが何よりでしょうね。

――そういった卒業生の方々の情報交換の場というのも教職課程にはあるそうですね

吉田:年に1回、「芸工大卒教員 学びの交流会」というものを開催しています。本来は、研修会のような形で実践発表や意見交換などを対面で行っているのですが、今はコロナ禍なので、規模を縮小してリモートで実施しています。教員になって以降、やはり皆さん悩みは尽きないようですね。でも、そうやって同じように悩みながら教員の仕事に向かっていることを先輩?後輩関係なく共有したり、またネットワーク作りをするための良い機会にしていただけたらと考えています。

――それでは、芸工大を目指す受験生へメッセージをお願いします

吉田:絵を描いたりデザインしたりする面白さを、より奥深く包括的に学べるのが教職課程だと思っています。なお免許を取得できる教科は、美術科/プロダクトデザイン学科/グラフィックデザイン学科/映像学科が「美術」、歴史遺産学科が「社会」「地理歴史」、建築?環境デザイン学科が「工業」。そんなふうに、いろんな学科の学生たちが専門分野を超えて集い、共に学び合い交流していけることも大きな魅力。教員になるかならないかは入ってから決めてくれればいいことなので、まずは少しでも興味がある方はぜひチャレンジしてみてください。

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教育現場で確実に生きるチームでの実践的な学びや、試験直前まで続く学生一人一人への手厚い指導。そして「デザイン思考」に基づいた、相手を尊重し肯定することから始まる関係作り。現役合格率約80%という高い数字は、そういった芸工大ならではの取り組みやマインドから自然に導き出された結果だと感じることができました。教員を目指す人はもちろん、自らを成長させるための場としても魅力的な教職課程。受験生の皆さんはこの機会にぜひ、履修を考えてみてはいかがでしょうか。

最後に2022年度教員採用試験合格者の中から、2名の学生の声を紹介します。

実践的な学びの中で得られた、共に励む友人たちとの枠を超えたつながり

教職課程 奈良部 森吾さん

奈良部 森吾(グラフィックデザイン学科4年/山形県公立学校美術教員 内定)


自ら学習指導案を作り授業を実践してきた「模擬授業」は、特に印象に残る学びとなりました。グループワークを通してより良い方向に改善していけたことが大きかったと感じています。また3年次からは教員採用試験対策講座や面接練習などの機会も増え、先生方の支援の手厚さに驚きました。

心の支えになったのは、同じグラフィックデザイン学科から教職を取っていた仲間たちの存在。一方で、普段はあまり関わりのない学科の学生たちとも、教職を通じて交流し共に学び合えたことがとても刺激になりました。教員採用試験の実技試験ではよくデッサンが出題されるのですが、教職を取っている美術科の友人に自分の絵を見てもらえたからこそ、初心者だった僕でも力を伸ばし、合格につなげることができたと思っています。

教職課程は、「絶対に先生になりたい」という人だけが履修しているわけではありません。自分のために勉強できる場であり、他の学科の学生とのコネクションを築ける場でもあるので、もし少しでも興味がある方はぜひ履修してみてください。

最後の最後まで続いた心強いサポート。経験を多く積めたことも大きな自信に

教職課程 山本 真央さん

山本 真央(美術科彫刻コース4年/兵庫県公立学校美術教員 内定)

自身の作品制作と採用試験の勉強を両立するのは大変でしたが、なんとかペース配分しながらそれぞれの学びに臨んできました。無事合格できたのは、教職の先生方が何度も小論文の添削をしてくださったり、集団討論や個人面接の練習機会を数多く作ってくださったからだと思っています。

また、とても印象に残ったのが「模擬授業」をしていた時の吉田先生の言葉。普段は自然に出てくる地元?関西の方言を抑えて話していた私に、「もっと自分を出してもいいんじゃない?自然体でいいから」と声をかけてくださって、それですごく楽になれました。つい「ちゃんと先生やらなきゃ、授業やらなきゃ」と、かしこまった感じになってしまっていたんですけど、そんなに気張らなくてもいいんだと思うことができました。

もしかしたら、「勉強は苦手だから先生になるのは無理」と考えている人もいるかもしれません。でも全然そんなことはなくて、履修を始めてから日に日に成長していけるのが教職課程の良いところ。同時に教育を学ぶ面白さにも気付くことができました。



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(撮影:渡辺然、取材:渡辺志織、入試広報課?土屋)


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東北芸術工科大学 広報担当
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