文芸学科Department of Literary Arts

[優秀賞]
伊藤柊真|愛しき童の座敷謎語
岩手県出身
池上冬樹ゼミ

主人公の瀬川流帆(せがわ?るほ)は4年生の女子大学生である。そんな流帆の前で2つの事件が起きた。祖父である岩渕石雄(いわぶち?いしお)を狙った爆破事件と少年、赤松紅葉(あかまつ?もみじ)による狂言誘拐の配信だ。母との電話に使う大事なスマートフォンを紅葉に奪われた流帆は、紅葉の居場所を探りながら、2つの事件を解明していく。岩手県遠野市のとある旧村を舞台にした、愛をテーマにしたミステリー小説。



池上冬樹 教授 評
エンターテインメントの作家になれるかなれないかの違いは、いかに仕掛けを考え、いかに物語を作り上げていくことができるかどうかである。伊藤柊真はそれができる。
物語は、「私」が爆弾を仕掛けて大怪我をおわせたこと、狂言誘拐を配信するように仕組んだことを告白する場面から始まるのだが、物語は一直線には進まない。中学生のYouTuberが行なう“誘拐”の実況中継も入れてきて、やや方向が見えなくなるのだが、それも作者の意図。物語はテンポ良く進み、一体何が起きているのか、爆弾を仕掛けた犯人は誰なのかというフーダニットへと突き進んでいく。
優れているのは、柳田國男の『遠野物語』と宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフとして使い、中学生モミジのキャラクターを輝かせ、「私」との友情を作り、そして「私」の母親への思慕と、自らの成長を具体的に「見せている」ことである。テーマの視覚化ともいうべきラスト三行がとてもいい。読者は鮮やかに場面を思い浮かべ、切なる思いを味わうことになる。?