大学院Graduate School

戸田晶|山形県鶴岡市善寳寺五百羅漢像に使用されている色材に関する調査 ―青色および緑色色材とそのバリエーションに着目して―
秋田県出身
柿田喜則ゼミ

山形県鶴岡市龍澤山善寳寺は、曹洞宗寺院であり、敷地内の五百羅漢堂には五百羅漢像をはじめ、531体の仏像群が安置されている(図1)。東北芸術工科大学文化財保存修復研究センターでは、この五百羅漢堂内の仏像群の修復を受託し、2015年度より「龍澤山善寳寺五百羅漢像保存修復業務」として長期修復事業を実施している。羅漢像は寄木造りで制作され、表面には様々な色材を用いて彩色が施されている。これまで、彩色に関する調査も進められてきたが、限られた羅漢像のみを対象としたものであり、531体の羅漢像全体の色材を把握するには十分でない。また、緑色と青色に関しては同定されていない。そこで本研究では、2021年に修復を実施した羅漢像31体と羅漢堂現地で調査した4体を対象とし、緑色と青色色材に着目して使用色材の同定を進めた。また、測定した羅漢像毎に比較に適した形のデータシートを作成し、今後の色材調査データの蓄積の基礎を築くことを目的とした。
羅漢像の色材調査には、含有元素を測定するために可搬型蛍光X線分析装置(XRF)を、色材の表面状態を確認するためにデジタルマイクロスコープを用いた。測定は1体あたり十数か所実施し、測定箇所毎にデータシートを作成した。また、XRFで検出された元素を基に色材の推定作業を行った(図2)。緑色であれば銅が検出されたものは銅を含む岩緑青か花緑青、銅が検出されないものは青系色材と石黄の混色、青色であれば鉄が検出されたものはプルシアンブルー、鉄が検出されないものはウルトラマリンブルーや藍などの有機質色材のいずれかであると推定した。さらに、検出強度に着目し、検出強度が強いものと弱いものとに分別し、傾向を調べた。緑色と青色のいずれの場合も、検出強度が強いものは色味が強く、色材の粒子が見えたのに対して、検出強度が弱いものは色味も薄く、粒子も確認できないものが多かった(図3)。
本研究で、羅漢像に使用される色材を概ね把握することができた。しかし、XRFのみでは完全に同定することは難しいため、より詳細な分析を行う必要がある。今後もデータ収集の継続とさらなる詳細分析の実施が継続されることを祈念する。

1.五百羅漢堂

2.青色色材の蛍光X線分析結果の一例

3.緑色色材のデジタルマイクロスコープ画像